日本初の医療福祉大学開設The history of our university

川﨑祐宣先生の思想と実践

~本学の成り立ち~

川﨑祐宣先生

川崎学園は、1970(昭和45)年に設立された学校法人で、最初に誕生したのは川崎医科大学でした。その3年後の1973(昭和48)年には、医科大学附属病院ならびに川崎医療短期大学が開設されました。

そして私たちの川崎医療福祉大学は、日本初の「医療福祉大学」として、1991(平成3)年に開設されました。

今日では、「医療福祉大学」といっても珍しくありませんが、当時は、多くの方々から「医療福祉って何?」ときかれたものでした。医療福祉を説明するには、川崎学園の生みの親である川﨑 祐宣先生の思想と実践をお伝えする必要があります。

川﨑 祐宣先生は鹿児島県の生まれで、1931(昭和6)年に岡山医科大学を卒業し、外科学教室に入りました。その後、1936(昭和11)年に岡山市立市民病院の外科医長に就任し、さらに3年後の1939(昭和14)年には、外科川崎病院を開設しました。そこでは昼夜の別なく働き続けましたが、同時に患者さんの中には、いろいろな生活上の問題を抱える人たちが少なくないことを知りました。医療費が払えない人たちや、障がいをもちながら社会の無理解に苦しむ人たちには、可能な限りの援助を惜しみませんでした。

再建された外科川崎病院

第二次世界大戦の終わる直前の1945(昭和20)年6月、空襲によって病院は全焼してしまいました。先生は、資材の乏しい中を奔走し、翌1946(昭和21)年9月には病院をみごとに再建しました。「年中無休・昼夜診療」を実行した川﨑先生の病院には多くの患者が来院・入院しましたから、結果として、病院の収入も少なくありませんでした。しかし同時に、高額の税金を納めることにもなりました。

税金を納めることは大事なことですが、得られた収入をより有効に役立たせるため、川﨑先生は、病院や土地などを寄付して、財団法人を設立する決心をしました。戦後の混乱のさめやらぬ1950(昭和25)年のことでした。当時、医療に比べ、社会福祉の分野は著しく未熟で、なかでも医療に裏打ちされた福祉は皆無と言ってよいほどでした。病院でさまざまな人たちを診てきた川﨑先生は、「医療によって支えられる福祉」の必要性を痛感し、診療収入をそのような活動に振り向けられるよう、自らの病院を無課税の財団法人に委ねることにしたのでした。

社会福祉法人・旭川荘

川﨑先生の構想は、さらに大きく発展していきました。それは社会福祉法人・旭川荘の設立でした。肢体不自由児や重度知的障がい児など、主に医療を必要とする障がい児(者)のための施設を建設するという意味合いからでした。1956(昭和31)年のことです。

その後、旭川荘は、総合福祉施設としてめざましい充実ぶりを見せていますが、川﨑先生の夢はさらに広がり、優れた人材育成を目指すようになりました。医療も福祉も、それを担う職員の力量に左右されることを痛感した川﨑先生は、まず「良き臨床医」を育てることに尽力しました。それが、川崎学園の誕生となり、川崎医科大学の設立となったのです。

川崎医療大学・川崎医療大学付属病院

やがて、「良き医療人」を育てる目的で、「川崎医療短期大学」ならびに「川崎リハビリテーション学院」を設立し、そして、川崎学園創立20周年を記念する事業として「川崎医療福祉大学」の設立を計画したのでした。「医療と福祉の双方に通じた専門職」の養成を目的としたものでしたが、それは、まさに今日の社会的要請をみごとに予見したものでありました。

川﨑先生の唱えた「医療福祉」とは、「医療に根ざした福祉」という意味合いでスタートしたことは間違いありませんが、やがてこの考え方は、大きく発展していきました。先生の実践から察するに、医療福祉とは、「患者やクライアントを理解するときの視点」を意味し、今日の用語でいえば「医学モデルと社会モデルの双方を重視すること」にあったと思われます。医学モデルとは、その人自身に「より良く変化してもらうこと」をめざすものであり、社会モデルとは、その人自身が変化しなくても、「環境や支援を豊かにすることによって、その人の生活や人生を充実したものにすること」を意味します。

川崎学園の建学の理念は、「人間をつくる、体をつくる、学問をきわめる」に込められています。「人格を涵養し、健全なる心身状態のもとに、専門領域をまっとうする」というスローガンです。医療福祉という概念のもとに、私たちはその担い手として、自らを厳しく磨くことを大きな喜びとし、誇りとしている次第です。

川崎医療福祉大学

川崎医療福祉大学は、今や、5学部17学科を擁する大学となりました。大学院には、修士課程12専攻、博士課程8専攻が設置されていますが、修士課程医療福祉学専攻の中には「遺伝カウンセリングコース」ならびに「発達障害(TEACCH)コース」があります。また本学は、世界中で唯一、米国ノースカロライナ大学TEACCH部と姉妹提携しております。今日、ますます重要性を増している臨床遺伝学的な支援や自閉症圏に対する支援について、本学は、日本における中核的な教育・研究機関として飛躍しようとしています。

また本学は、川崎医科大学とともにオックスフォード大学グリーンテンプルトンカレッジと姉妹提携しており、現在は、教員レベルの交流が持続的・積極的に行われています。

21世紀における私たちの課題は、「人について、社会について、地球について」考えることだと思います。本学は、その目標に向かってひたむきに歩みを続けております。