カテゴリー: 教職員コラム

私の好きな映画 〜白い巨塔〜 佐々木新

 映画館で映画を観る習慣がないため,ここではテレビドラマまで枠を広げてみます。思い返すと,社会の仕組みや権力構造,人間の欲や駆け引きが迫ってくる物語には妙に惹かれることがありました。この作品は私にとってその代表格です。大学病院での権力闘争,主人公の果てしなき野望と医療倫理を描く重厚なドラマでした。登場人物が交わす言葉ひとつひとつに組織の力学や人の思惑が丁寧に織り込まれていて,社会の仕組みを映す鏡のようでもありました。

 放送当時,私は社会人2年目。幸いにも生き馬の目を抜くような世界とは無縁の職場でしたが,どこか自身の興味や心情と重なる部分があったのでしょう,録画しては何度も見返していました。すると台詞もいくつか自然と覚えてしまい,職場の先輩と覚えた台詞で冗談を言い合うこともありました。当時覚えた台詞はいまでも社交の場でときに役立つことがあり,テレビドラマの視聴が私の社会的スキルに影響を及ぼしたことを感じます。自分の中に,Bandura, Aのいう観察学習の成立をみる思いです。

佐々木 新

私の好きな映画 〜グッド・ウィル・ハンティング / 旅立ち〜 今里有紀子

天才的な頭脳を持ちながら、過去のトラウマから心を閉ざして、周囲を威嚇・冷笑し防衛機制(自分の心を守る盾)を張り巡らせて生きる青年ウィルが、最愛の妻を亡くして傷ついた(喪失体験)心理学者ショーンと出会い、激しくぶつかり合いながら少しずつ心を開いていく不朽の名作です。
この映画、臨床心理学の視点から眺めると面白さが何倍にも跳ね上がります!!

当初、ウィルは、自身の心の傷み(「愛されない恐怖」)から外の世界を迫害的にとらえ、防衛(知性化,価値下げetc)を張り巡らしていました.そして、ショーンにも激しくテストをします。

 ここで、注目したいのが、ショーンが見せる「逆転移」の扱いです。ウィルの痛烈な言葉に、ショーンは動揺します(激昂すらします)が、そこから、ウィルの真の「傷み」(投影同一視)に触れ(体験し)ます。つい、そこで(映画では)、ショーンは自身の傷み(自己開示)を伝えてしまうのですが・・・。二人の生身の「傷み(トラウマ)」に触れながらも、ウィルの「傷み」を包容(「コンテイン」)しながら防衛を一枚ずつはがしていきます。

「It’s not your fault(君は悪くない)」が臨床心理学の本質を凝縮しています。「信頼関係(ラポール)」形成の要素の「受容」(人間理解の深さ)がいかに泥臭いものか、リアルを感じられるのではないでしょうか。生きた「臨床」へと昇華する瞬間をぜひ、目撃してみてください。

今里 有紀子

私の好きな映画 〜インサイド・ヘッド〜 荒井佐和子

私の好きな映画は、ディズニー/ピクサー作品『インサイド・ヘッド』です。この映画は、感情を擬人化し、私たちの記憶や心の動きを、面白く、そしてとても分かりやすく描いています。

登場する感情は「ヨロコビ」「カナシミ」「イカリ」「ビビり」「ムカムカ」の五つ。最初は「ヨロコビ」だけで毎日をうまく進めようとしますが、物語が進むにつれて、「実はどの感情も大切な役割を持っている」ということに気づかされます。つらい気持ちや不安な気持ちも、私たちを守ったり、立ち止まって考えるきっかけをくれたりするのです。

この映画は「見る認知行動療法」と言われることもあり、毎年学生のみなさんと一緒に観ながら、私自身も新たな気づきをもらい、心の大切な動きを思い出させてくれる、大好きな作品です。

ちなみに続編が2024年に公開されているのですが、実は未鑑賞……。そろそろ私の感情の指揮官を起こさないといけません。

荒井 佐和子

教職員コラム 心理学って役に立つんじゃ ~泣くから悲しい?悲しいから泣く?~ 本城 瑞江

 心理学で人の感情を勉強するとき,必ずこの問いを学びます。
 感情には主観的要素・生理的要素・行動的要素があり,これらを総合して感情生起のメカニズムが説明されたりします。そして,その起源を辿っていった先にたどり着くのが「泣くから悲しい?悲しいから泣く?」というキャッチーなフレーズです。
どちらもありますよね。涙が出て「あー,私悲しかったのかぁ」と気がついたり,逆に悲しい気持ちになってから涙がぶわーっとあふれてきたり。

 前者は,出来事に対して身体(抹消神経)が反応して,それが脳に伝わって感情が湧き起きるので抹消起源説と言われています。提唱者の名前を取ってジェームズ―ランゲ説とも言います。
後者は,脳(中枢神経)で感情が沸き起こり,身体部位に影響を与えるので中枢起源説と言われています。こちらも提唱者の名前を取ってキャノン―バード説とも言います。

 これは,どちらの説が正しいとか間違っているとか,そういう話がしたいのではありません。私がこの単語を選んだのは,心理学は人に起こる様々な現象に純粋に興味を持ち,何が起こっているのかを科学的に探求していく学問であることをお示ししたかったからです。
ちなみに,この2つの説と合わせて「2要因説」と言うのも学ぶのですが,これはまた別の機会に☆

 皆さんの身近にある疑問について知りたくなったら,ぜひ心理学を学びに来たください。
一緒に探求していきましょう~!

本城 瑞江

教職員コラム 心理学って役に立つんじゃ~アイデンティティ~ 湯淺 絢

 私が大学に入学したころ,自分は何者で,これからどうなりたいのかという漠然とした疑問がありました。地に足がつかない感覚に,“これは自分だけなのか?”“どうしたらいいんだ?”と,とても怖かったことを覚えています。

 そんなある日,大学の授業で,「アイデンティティ」という言葉に出会いました。「アイデンティティ」とは,Erikson(1950)によって提唱された,青年期の発達過程の様相を表す概念です。青年期に入ると,人は,自分は何者なのかという問いを自分に向け,答えを見つけようと,もがきます。私はこの「アイデンティティ」という言葉を知って,“これは私だけじゃないんだ”と,拍子抜けするような,ホッとするような気持ちを覚えました。そして,漠然としたものの正体が分かったからか,安心してその疑問に向き合えるようにもなりました。

 心理学は心の中で起こっていること,つまり,目に見えないものに,取っ手をつけてくれる学問だと思います。取っ手がついたからといって,心の悩みが解決するわけではありませんが,悩みと向き合えるようになり,さらには人に伝えることもできるようになります。

 そんなわけで,日常の中で感じる何気ない悩み,不思議だなと思うこと,人間に関するありとあらゆること,その全てに寄り添ってくれる心理学は本当にありがたい学問なわけです。

 ここまで述べておいてズッコケますが,私は「アイデンティティ」の研究をしたことはありません。この4月に入学した1年次生を見ていると,これからどんな心理学ワードに出会うのだろうかと,勝手にワクワクしてこのテーマを取り上げた次第です。

湯淺 絢

教職員コラム 心理学って役に立つんじゃ~分散学習~ 山根 嵩史

 私の専門である教育心理学では,教育・学習に関係する様々な要因について研究が行われています。研究対象は学習者や指導者,学習方法,学習環境など多岐にわたりますが,例えば「効果的な勉強法とはどんなものか」,「勉強ができる人になるにはどうすればよいか」といった問いに答えるのも教育心理学の役割です。なんだか,いかにも役に立ちそうですよね。
 そんな教育心理学の知見の1つをご紹介します。以下の2つの勉強方法のうち,より効果がある(成績が伸びる)のはどちらだと思いますか?

正解は…Aです。同じ時間や回数勉強をする場合,まとめて勉強するよりも適度に間隔を空けて勉強した方が,記憶に残りやすいと言われています。これは分散学習,あるいは学習の分散効果と呼ばれ,単純な身体動作の習得から,単語の記憶のような学校での勉強に近い状況まで,幅広く効果が確認されています。

 この分散学習について,もう一つ面白いことが分かっています。それは,「学習者は分散学習が効果的であることにあまり気づいていない」ということです。それどころか,「集中学習の方が効果的だと思っている」というデータもあります(Zechmeister & Shaughnessy, 1980)。教育場面に限らず,自分の考えや思い込みが実態とズレている,ということは多々あります。このようなズレを発見し,その仕組みを解明することが,心理学の面白さなのではないかと思っています。

山根 嵩史

引用文献:Zechmeister, E. B., & Shaughnessy, J. J. (1980). When you know that you know and when you think that you know but you don’t. Bulletin of the Psychonomic Society, 15(1), 41-44.

教職員コラム 心理学って役に立つんじゃ 〜 ストレスとストレスマネジメント 〜 福岡 欣治

 先日届いた愛育活動の情報誌を見たら、“今日からできるストレス対処法”というコーナーがあって、そのひとつめが「話す・相談する」でした。これって、社会心理学(私自身が担当している本学の科目でいえば「対人コミュニケーション論」、臨床心理学科の科目でいえば「社会・集団・家族心理学」)の中の「自己開示」の話だな〜、と思い出します。


 ちょうど近々に、働く人のメンタルヘルスに関する大阪商工会議所主催の検定試験である「メンタルヘルス・マネジメント検定試験」の団体特別試験を実施するのですが、公式テキストに載っている事柄、たとえば「4種類のソーシャルサポート」(#)の話は、健康心理学(現在の本学での授業名は「健康・医療心理学B」)で話している内容だな〜、と思い出します。

 私たちがふだん目にする情報のあちこちに、授業で扱っている事柄があって、社会の中で使われているんだな〜、と楽しくなります。このコラムを見てくださっているみなさんにも、ぜひ、聴いていただきたいです!

(#)
「情緒的」「情報的」「道具的」「評価的」。それぞれ、励ましや受容、課題解決に役立つ情報の提供、実際の手助け、仕事ぶりや業績などへの適切な評価にあたります。元々の出典は、以下の文献です。
House, J. S. (1981). Work stress and social support. Addison-Wesley

福岡 欣治

教職員コラム 心理学って役に立つんじゃ 〜 人はどうして交通違反を犯すのか? 〜 水子 学

 2026年4月1日から,自動車やバイクと同じように,16歳以上の自転車運転者による交通違反に対して反則金を納めるよう通告する「交通反則通告制度」(いわゆる青切符)が適用されます。「ながらスマホ」は,1万2000円,信号無視は6000円,傘さし・イヤホン使用は5000円など,100種類以上の行為が対象になります。普段,私は自転車で通勤していますが,夜,無灯火でスマホを操作しながら運転している自転車と衝突しそうになり,ヒヤッとしたことがあります。自分自身と周囲の人を守るために,交通規則をきちんと理解・遵守し,誰も傷つくことのないよう配慮ある運転を心掛けたいものですね。

 ところで,大なり小なりの危険が伴うにもかかわらず,人はどうして交通違反を犯すのでしょうか。自分勝手だから?モラルが低いから?まあ,それも理由のひとつかもしれませんね。でも,心理学の研究によって,その人のモラルの問題だけでなく,複数の心理的要因が組み合わさって,違反行為が発生することが明らかにされています。代表的な要因として,「自分は大丈夫」「自分には悪いことは起きない」という根拠のない妙な自信が挙げられます。心理学では,このように,自分が不幸な出来事に見舞われる可能性を過小に低く見積もり,反対に好ましい出来事が起こる可能性を過大評価する傾向のことを,楽観性バイアス(optimism bias)と呼んでいます。このバイアスがあるおかげで,私たちは「なんとかなる」と,前向きに生きていくことができるのですが,その一方で,信号無視や飲酒運転などの無謀な行為におよんでしまうのです。楽観性バイアスという心の働きは,私たちを守ってくれると同時に,危険にさらしてしまうという,相反する2つの役割を担っているのですね。心とは本当に不思議なものです。

水子 学

教職員コラム 心理学って役に立つんじゃ 〜 メンタルヘルス 〜 谷原 弘之

 働く人のメンタルヘルスを研究してきました。メンタルヘルスは「心の健康」と訳され、心理学を通じ、健康で長く働き続けることに役立てています。

 例えば、学校や仕事に行くと人間関係のストレスが発生し、時には疲れることがあると思います。家に帰り、推し活をすると元気が回復し、次の日もがんばろうと思えるのではないでしょうか。これがストレス対処法で、コーピングと言います。

 現代社会ではストレスを完全に排除することは難しいため、瞬間的に自分を守る“ストレスコーピング”を使ったり、信頼できる人に相談にのってもらい応援してもらう等、様々な心理学的手段をもつことが、心の健康を維持するカギになります。

 

谷原 弘之

教職員コラム 心理学って役に立つんじゃ 〜 臨床と基礎研究 〜 中村 有里

 私の専門はうつ病や強迫症などに効果が認められている認知行動療法です。私は心理支援の現場でこの治療法を実践すると同時に,「この治療法は心のどこに働きかけ,どこに変化をもたらしているのか」,「治療で良くなった後,なぜ再発することがあるのか」といったメカニズムを研究しています。

 心理支援の中で生まれた「治療法の効果がもっと長く続く方法はないだろうか」という疑問が,私の研究の出発点です。こうした研究は,安心して治療を始め,希望をもって治療を継続することを支えることにつながると考えています。心理支援の実践と研究の両方を行うことが,よりよい社会への貢献につながっていると信じています。その道を一緒に歩める学生がいることも私の大きな励みになっています。写真は実験のために作った小道具です。何に使うかは講義でお話しています。お楽しみに。

中村 有里