教職員コラム 「私のイチオシ心理学キーワード:自伝的編集」 瀧川 真也

 みなさんは,自分の体験を盛って誰かに話したことはありますか?
 ある研究によると,人は他者に話した自分の体験のうち約6割に何らかの修正をしていることが明らかになっています(Marsh & Tversky, 2004)。
 
 私たちは,普段の会話の中で,相手や状況によって話す内容を修正していて,場を盛り上げるために大げさに話したり,怒られないように都合の悪い部分を隠して話したりすることがよくあります。このように,自身の体験を自分にとって肯定的に修正して相手に伝えることを「自伝的編集(autobiographical editing)」といいます。
 
 実は,この「自伝的編集」はかなり新しい心理学キーワードで,私も著者のひとりで2022年に出版された『記憶現象の心理学(北大路書房)』のなかで,初めて日本語として翻訳されたのではないかと思います。身近に体験していても,実際にはよくわかっていない事象はたくさんありますが,この「自伝的編集」も私たちがどのような目的で行っているのかははっきりとわかっておらず,発展途上のキーワードといえます。
 まさに今,研究が進められているキーワードがどのように成長するか見届けられるのも,研究のおもしろさかもしれません。

瀧川 真也