教職員コラム 「私のイチオシ精神医学キーワード:覚醒している意識障害」 澤原 光彦

 心理学の隣接領域として精神医学からキーワードとして「覚醒している意識障害」を挙げます。精神医学診察で最も重要な事は器質的要因を見逃さない事であり、まずは意識障害に気づくことが出来るかどうかがターニングポイントになるのです。「刺激しても覚醒できない=昏睡」や「刺激がないと覚醒の維持が困難=傾眠」は医療に関わる人であれば比較的容易に判別がつくと思われますが、「覚醒している意識障害」は、そもそも専門家以外の人々にはこのような事態の認識が必ずしも十分ではないことが多く、結果的にしばしば見逃されていることがあるのです。私が研修医の時に救急診察室で当時のある内科助教授が「手を握れと言ったら手を握った。指示に従えるのだから意識障害はない」と言い切ったことがありました。勿論これは危険な即断であってこの程度の簡単な指示に従えるからと言っても、或いはここが「病院の救急診察室である」程度の見当識が保持されているからと言っても、必ずしも意識障害が否定できる訳ではないのです(ここが難しい所)。

 「覚醒している意識障害」は「軽い意識混濁」と表現されることもありますが、この表現は事態そのものが「軽い=軽症」と誤解される危険があるので必ずしも適切とは言えないのではないかと懸念します。

 そして「覚醒している意識障害」の診断を的確に行う複雑かつ繊細な側面については原田憲一著「意識障害を診わける(1980年第1版・1997年改訂版:診療新社)」で詳細に記述され論じられているので是非目を通していただけたらと考えます。―この度この名著「意識障害を診わける」が金剛出版から復刊(2024年1月25日付)されたと聞いて大変うれしく思います。

澤原 光彦