教職員コラム お題「学生時代の思い出」 瀧川 真也

 人は日常生活の色々な場面で過去の経験(自伝的記憶)を思いだすが,認知心理学では過去の経験を振り返ることには役割があると考えられている。その1つに「方向づけ」機能があり,これは自伝的記憶が様々な判断や行動を方向づけるのに役立つ。たとえば,失敗した経験から教訓を得ることで,その後に経験する類似した場面ではその経験を生かすことができる。

 

 私は昔から前もって準備することや時間的余裕をもって取り組むことが苦手だった。もちろん,小学校の夏休みの宿題は8月の最後の一週間から猛烈に取りかかり,日記は1か月前のことなど覚えているはずもなく,フィクション満載のほぼ創作文だった。

 

 そんな私も高校1年のころ,過去を反省し,夏休みの宿題をはやめに終わらせようと思いついた。夏休みを満喫したい,8月末のあの切迫感から1度でいいから解放されたい,その思い出で夏休みの宿題を1週間程度で終わらせた。しかし,その数日後,我が家は火事になった。幸い,家族はみんな無事で,火もすぐに消し止められたが,家の物は煤(すす)で真っ黒になり,あらゆるものに煙のにおいがついてしまったため,とても住める状態ではなくなってしまった。

 

 私が一念発起して早々に終わらせ机の上に置いていた夏休みの宿題も見事に煤で真っ黒になった。そして,火事になったことを聞きつけ見舞いに来てくれた高校の先生は,煤だらけの我が家を横目に,何を思ってのことか親切にも代わりに新しい宿題を持ってこようかとご提案いただいた。。この体験を機に私はそれまで以上に,はやめに課題や作業にとりかかることはなくなった。

 

 方向づけ機能は,過去の経験がその後の判断や行動に影響を与えるものである。

瀧川 真也