教職員コラム 心理学って役に立つんじゃ 〜 思い出の役割 〜 瀧川 真也

私たちの思い出や経験は,過去がそのまま頭の中に記録されているのではなく,今の自分や将来の自分のための働きがあります。たとえば,苦手だった計算を何度も練習してできるようになった経験は,「自分には粘り強さがある」という現在の“自分らしさ”を確かめる手がかりになります(自己機能)。

 また,家族との会話で「昔,家族みんなでよく公園に行ったよね」と話すと,そこから話が広がり,家族とのつながりを自然に感じられることがあります。このように思い出を共有することで,お互いに話がしやすくなったり,リラックスして話せる雰囲気が生まれたりします(社会機能)。
さらに,過去の経験は次の行動を選ぶ判断にもつながります。テスト前に勉強計画を立てずに失敗した記憶があれば,「今回は早めに準備しよう」という行動の変化が生まれます(指示機能)。

 一方で,思い出は時間が経つ中で感じ方が変わることがあります。たとえば,部活でミスをして落ち込んだ経験でも,あとで振り返ると「あの悔しさがあったから続けてこられた」と前向きに受け止められるようになることがあります。こうした変化は記憶の「再構成」と呼ばれ,その体験の意味を自分の中で少しずつ捉え直すことで起こります。「再構成」は誰にでも起こるごく自然なことで,当時はつらかった体験でも,時間が経過するにつれ別の見方ができるようになり,成長のきっかけになることがあります。

 心理学では,過去をただ“過ぎ去ったもの”と捉えるのではなく,今の自分を形づける大切な経験として考えています。みなさんがこれから向き合う出来事も,いつかきっと自分の力になるはずです。

瀧川 真也