教職員コラム 「私のイチオシ心理学キーワード:受容と共感」 今里 有紀子

 かれこれ、数十年臨床心理の道に「身」を置いているのですが、いまだ「受容と共感(accept and empathy)」の体現は私には、とても難解で、訓練を続けているものになります。 臨床心理学においては、学派を問わず、中核的な臨床家の実践における基本姿勢・態度になるものだろうと思います。「聴く」ことの困難さを毎回感じながら、少しずつ耳を傾ける感覚を学んでいるところになります。

 

 特に、この用語を持ち込み臨床心理学に大きな影響を及ぼしたのはカール・ロジャーズ(Carl rogers)ですが、対象者の経験を温かく無条件に受け入れ、さらに、対象者のこころを「あたかも(as if)自分自身のものであるかのように」感じ取ることを推奨し、そして、自分の視点や経験から相手の気持ちを推し量る同情(sympathy)とは区別(対象の経験や感情を認識して理解すること)するよう戒めています。

  

 文字にすると、「なるほど」ですが、それを実践し、相手の世界(こころ)に、私の世界(こころ)をいれてみると、私の中には、さまざまな感情がわいてきます。相手の感じているであろう気持ち、私自身の気持ち、そして、「わからない」感覚、理解を超えた得たいの知れない恐ろしさ等・・・。

 これらのさまざまな情緒にふれ(味わい)そして、それを相手のこころに届く形で、伝え返すことの難しさを日々感じ、関心をもって臨床に取り組んでいます。

 例えば、テニスのうまい打ち方「ボールを目で追って、その速さ、強さ、威力などをとらえ(味わい)それへ、自分の感覚を合わせて、ボールを相手のとれる加減で返していく」を教えてもらっても、実践してみないとその感覚ってわからないですよね。「受容と共感(accept and empathy)」も体験しながら、自身で味わい、修正をしながら、身に付けていくものなのだろうと思います。

 もし「聴く」ことに関心持たれた方は、まず相手のこころに自分のこころを入れる感覚を会話の中で、感じてみてみるのもよいかもしれませんね(笑)・・・。