教職員コラム お題「私の研究テーマ」 水子 学

 

 皆さんは,「高次脳機能障害」という言葉を聞いたことがありますか。脳卒中といった脳の病気や交通事故などが原因で脳が傷つくと,記憶や注意集中,感情コントロールなどが上手く出来なくなり,日常生活に支障が生じることがあります。これが「高次脳機能障害」です。

 人付き合い,勉強や仕事など今まで出来ていたことが急に上手くいかなくなるわけですから,そのギャップに障害を負った当事者は戸惑い,苦しみます。同時に,突然,障害を負ってしまった当事者と向き合い,不可解な言動に対応し続ける家族の胸の内には,他人には推し量ることのできない深い悲しみや苦しみが渦巻いているのです。
 高次脳機能障害者と暮らすご家族と初めて出会ってから,もう20年になります。「親亡き後,この子はどうなるのでしょうか」といった家族からの問いかけに対して,「今の私には,お答えできる返事が見つかりません」と伝え返すことしか出来ませんでした。頼りない限りです。しかし,心の世界はとても複雑で一人ひとり異なります。万人に有効な助言は案外少なく,不確かさの中で解決に至る糸口を手探りしながら見出すしかないのです。家族の胸の内に触れるたびに,その心を支えるとはどういうことなのか,考え続けています。

水子 学