教職員コラム お題「私の仕事」中村 有里

 

 教育に従事する上でも、子育てをする上でも、相手を「注意する」ことが私の仕事になることがある。ただ、多くの場合、相手は注意を受けることを求めてはおらず、「注意する」というのはとても難易度の高い仕事だとその場に直面するたびに思う。「あぁ、あの時の注意はうまくいった」などと思える記憶は1つもない。どのような場面でも「このタイミングじゃなかったかもしれない」「もっとこう伝えた方が良かったんじゃないか」と振り返り、反省することが多い。ただ、反省というわけでもなく、未だにどうしたら良かったのかわからない不思議な体験がある。

 

 数年前のことだが、仕事を終えて帰宅し、持ち帰った荷物をしまい、我が家のリビングに入ると、そこに小学生だと思われる見知らぬ子が立っていた。

 「えっと…、一緒に帰宅した娘は帰宅後、家に入らずそのまま外で遊んでいて…、だから私は玄関の鍵はかけていなくて…、私はこの部屋に入るまでに別の部屋にいて…、洗面所で手も洗ってたから、うん、その間にこの子が外から家の中に入ろうと思えば入れるか…。この子はおばけではない…よね」と、なぜその見知らぬ子が我が家のリビングに立っているのかを理解しようとしたが、動揺する私の頭ではその状況が把握できなかった。

 「えっと…、なんで!?」と言葉にするのが精一杯で、その子になぜ我が家に入ったのかたずねてもその理由が十分にはわからなかった。その後、その子を玄関まで連れて行き、「勝手に人の家に入ったらあかんよ」と、注意したつもりが、「なんでですか?」とその理由を問われた。娘から「なんで?」と質問責めにされることに慣れている私だが、その時、私が言葉にできたのは「びっくりするし、怖いもん!」という一言だけで、それ以上の説明も注意もできなかった。私に向かって「きれいな家ですね」と一言言って走って出て行ったその子に「だから怖いんだって」と小さな声でつぶやき、しばらく呆然と私は玄関に座り、家の外で遊ぶ娘を眺めていた。その後、その子に出会うことはなく、きつねにつままれたような体験だった。やっぱりおばけだったんだろうか。

 なぜ「仕事」というお題で「注意する」ということが私の頭に浮かんだのかはわからないが、今の私自身の課題だからなのだろうと思う。もう少し、この課題を考え続けてみようと思う。

 写真は娘が描いたNHK「チコちゃんに叱られる」のチコちゃんです。チコちゃんならこの難題にどうこたえてくれるのだろう。

 

中村 有里