教職員コラム 「私のイチオシ心理学キーワード:発達の最近接領域」 荒井 佐和子

 私が「発達の最近接領域(Zone of Proximal Development:ZPD)」という用語に出会ったのは学部2年生の時、自分一人では分からないことでも周囲に合わせて活動するうちに「あれ?できちゃった」、そんな発達の伸びしろにこそ教師は目を向けるべき、という教授法に関する理論として、教育心理学の中で学ぶことの多い用語です。

 

 ヴィゴツキーが提唱しただとか、子どもの発達理論なのだとか、そんな(大事な)ことは後回しで、言葉の響きの良さに、私の中の推し用語となりました。

 

 その後も解釈は多様化し、近年は「頭一つ分の背伸び」をもたらす他者との共同的な関わり(遊び)の中で、人がいまだ自分ではないものになろうとする場合に、発達が起こる、とも理解されているようです。

 かくいう私も、分不相応な役割(大学教員とか)を担い、こんな私でスミマセンと内心思いつつも、学内外で役割を演じ、演じることを通して、知らなかった自分に気づくことがあります。

 自分ではない人物を演じる中で自分を創造し、出演できるステージが増えていく、これまた近年流行しているマルチステージ型の人生につながる発達かもしれません。

 

 私の中で、語感の良さからスタートしたこの推し用語が、20年後に自分の研究領域(高齢者心理学)の理解につながるとは、やはり推しは、見つけるのではなく出会うもの、もはや運命に近いものだとしみじみ感じる今日この頃です。

 

参考文献

有元典文. (2015). ロイス・ホルツマン著, 茂呂 雄二訳 (2014).『遊ぶヴィゴツキー―生成の心理学へ』. 東京: 新曜社. 認知科学, 22(1), 213-215.

 荒井 佐和子