教職員コラム お題「学生時代の思い出」 小野 瑞恵

 私は、食べ物を口に入れているときが一番幸せな時間である。これは昔から変わらない。特に甘いものに目がなく、ついにこの春、健康診断の折に個別で呼び出されてコレステロール値を指摘されるはめになった。(本当にここだけの話だけれど、実は別腹を3つくらい持っているので、食後のケーキは3つくらい余裕である。大人になった今ではそれがなんとなく恥ずかしく、控える努力をしているつもりだったが、控えられていなかったようである。そうでなければ、健康診断で個別呼び出しをくらうわけがない。皆さんも、無意識の食べすぎには気を付けるように!)

 そんな私が、一時期どうしてもケーキが食べられなくなった話を聞いてほしい。それは学生時代、パン工場でアルバイトをした時のことである。クリスマス時期になると、そのパン工場ではケーキを大量生産するために短期のアルバイトがわんさかおり、そのうちの一人が私だった。作業は至極単純で「ベルトコンベアーで運ばれてくるスポンジの上に黙々とイチゴをのせる」、「とにかく床や機械にこぼれたクリームをぬぐって、バケツにためて廃棄する」、「コロコロと消毒スプレーを持って、作業する人達を勝手に消毒して回る」と、食品工場アルバイトならではという内容であったが、同じ作業の繰り返しは非常に心地よく、実に私にむいていた。お給料もよく、決められた日に出勤するとボーナスも支給され、工場内の食堂ではパンや肉まんが無料で食べ放題だったことも述べておく。そんなわけで12月の日中は、大学にいるか工場にいるかといった状態であったわけだが、勤務して7日過ぎたあたりから、なぜか口が甘いものを受け付けなくなった。毎日嫌というほど甘い匂いを嗅いでいるせいか、たくさんのクリームを廃棄する行為に罪悪感が募ったのか、原因ははっきりとしない。しかし、せっかくのクリスマスシーズンだというのに、ケーキが食べ物と思えなくなった。家族は心配していたが、甘いものを食べなくなった私は次の美食を求めるように生ハムやチーズといった塩辛いものの魅力に取りつかれ、心配する家族とは裏腹に素敵なクリスマス(生ハム、チーズ、ケンタッキー最高)を迎えたのである。ある日ふと、このまま甘いものは食べられなくなるのかと少しだけセンチメンタルな気持ちにもなったが、アルバイトに行かなくなった途端にケーキも激甘チョコレートも食べられるようになり、先に述べた別腹3つのありさまである。非常に無駄な杞憂であった。

 このケーキの出来事のように、私ですら「あれは何だったのか」という学生時代の経験がある。皆さんにとっても、そんな出来事があるのではないか。むしろ、そういう出来事がこれから起こる可能性だってある。ぜひいつか拝聴してみたい。

 ちなみに、私は一生懸命働いていたので「延長しないか」と声をかけられ、お正月のお餅を詰めるアルバイトもした(その時は、片手ですばやく6個のお餅を掴めるようになった)のだが、それはまた別の機会にお話しさせていただきたい。

小野 瑞恵