教職員コラム お題「私の仕事」佐々木新

 

 ここ数年,学科の就職委員やキャリア教育の担当が私の仕事の一部となっていることもあって,「各自の希望進路に向けてしっかり準備をしましょう」といった発言をすることが多い。しかし,私自身の仕事をよくよく振り返ってみると,それほど周到な準備はできずにやってきたなぁ,というのが実際のところである。

 その昔,私は将来を考えて大学に進学したが,その頃から初志貫徹したと言えるのは「臨床心理士」になることぐらいであり,臨床心理士として何をどうしたいのか,はっきりとこれを目指してやってきたと言えるものはあまりなかったかもしれない,と思う。学生時代,恩師の指導を通じて,また保健医療,福祉,教育などの分野での実習やアルバイト経験を通じて,自身の興味関心の対象もいくらかはあり,その学習にも努めたように思う。が,それと同時に常に迷いもあって,実際にどの分野でどのような仕事をするべきか,はっきりと決めるのは自分にはなかなか難しいことであった。そんな私が大学を出る際に,幸いにも福祉の分野に採用していただけたのだが,これもタイミングというか,その時のめぐりあわせのような就職であったなと振り返ると思える。最初からそう決めていて到達できた結果ではない。なので就職後に新たに勉強を始めたり模索したことも多く,明らかに準備不足でのスタートであった(関係者の皆様,申し訳ありません・・・)。しかしながら,その結果から学び,経験したことはあれから十数年たった今現在の仕事にも通じており,自身の職業人生の大きな支えとなっていることは間違いない。というわけで,自身の限られた経験から思うことは,あらゆるチャンスに開かれた態度を保つことが準備の段階ではかなり重要ということである。準備不足を肯定することはできないものの,どのみち100%準備が整ってから始められる仕事もまたないのだろうし・・・。

 考えてみれば,臨床心理士(これからは公認心理師も)の仕事に合わせてクライエントがいてくれるわけでもないし,何らかの悩みや問題を抱える人がいるのが先で,それに対して臨床心理学を学んだ者としてどう貢献できるのか,という順番になるのが本来の対人援助のあり方のようにも思われる。よって早いうちから事細かな業務分野や仕事内容ありきの考え方はむしろあまりしない方が良いのかもしれない,と最近は思うようになってきた。支援者が一人で描く思いが中心となる臨床はきっとありえない。そしていわゆる「心理に関する支援を要する者」は支援者が想像し得る範囲を超えてくることも多い,と自身の経験(狭いけど)からは思える。

佐々木新