教職員コラム お題「今,熱中していること」藤森旭人

「楽譜とチャートとケース記録」

 

 みなさんは楽譜が読めますか?

 身も蓋もないですが、僕は読めません。楽譜が読めたら、そこから奏でられる音色(ねいろ)が浮かんできて、さぞ味わい深い体験ができるんだろうなぁと思っています。

 だから、今回熱中していることは楽譜・・ではありません。 

 いきなり話は変わりますが、心理臨床の仕事の中には、毎回の面接記録(ケース記録やプロセスノートと言います)を書くことも含まれます。そして、自分のケース記録や他の人のそれに、この十数年で何千と触れてきました。そのケース記録から、僕が身を置いている精神分析的心理療法の領域では、転移を「読む」ことのトレーニングを積んでいきます。つまり、セラピストとクライエントの間で話されている内容(の記録)が、2人には直接関係のなさそうに見えることでも、2人の関係を表現しているものとして理解していくことを身に付けて行くわけです。詳しくは拙著「小説・漫画・映画・音楽から学ぶ 児童・青年期のこころの理解 精神力動的な視点から」の第2章をお読みください(宣伝してすみません(笑))。この体験は、おそらく楽譜を「読む」感じに近いのだろうなと勝手に想像しています。楽譜が読めなければ、それは紙にただおたまじゃくしが並んでいるようにしか見えませんし、転移が読めなければ、クライエントの深層心理や無意識が理解できないという考え方ですね。楽譜を読むのにも、転移を読むのにもトレーニングが必要なのも共通していますね。

 したがって、楽譜から音が浮かび上がってくる体験や、ケース記録から転移を読み取る体験を、ひとまず「楽譜的体験」と呼ぶことにしてみます。

 

 そして今回お話しする、熱中している「楽譜的体験」は株価のチャート、すなわち株式チャートです。ある株式会社に勤めている友人と話しているうちに、株式に興味を持ち、自分に身近な企業の株式を購入してみることにしました。多くの株に関する教科書には、株式は企業への投資や支援であると書かれていたので、自分の生活と直接関連のある企業の株を選んでみたわけです。すると、その企業の理念や経営状況、設備投資、人材開発、株の値動き等々、気になること気になること。そして、株の値動きは株式チャートというグラフで表されます。慣れないうちは、その「棒」が何を表しているのか全く読み取れないわけですが、徐々に慣れてくると、明日は値が上がりそうだなとか、下がりそうだなとか、おぼろげながら見えてきたりするわけです。他にも「PER」とか「PBR」とか言われる謎の記号があるわけですが、この数値から、企業の経営状態や方針を推し量ることができたりします。そして、その企業のホームページに行って確認することにはまっています。

 

 このような、ただの記号から別の奥行きのある事象を見出だす「楽譜的体験」の中で、今は株式チャートを「読む」ことに熱中しています。さて、今日もチャートがどんな金色(かねいろ)を描いているのか、見てみようっと。

藤森旭人