教職員コラム お題「私が学生時代に大切にしたこと」藤森旭人

 

「負けないこと」

「投げ出さないこと」

「逃げ出さないこと」

「信じ抜くこと」

でしょうか。 どこかで聞いたことあるぞと思った人もいるかもしれません。そうです、「大事MANブラザーズバンド」の「それが大事」(1991)という楽曲に出てくる大事なことと一緒ですね。この4つは、学生時代に取り組んできた勉強とサッカーを継続する上で本当に支えになり、「大切にしたこと」と言えると思います。ただ、最近この楽曲を作った立川俊之氏が「しくじり先生」というバラエティ番組で「結局どれも大事じゃなかった」と言っており、思わず吹き出してしまいましたが。

 と、ここまで書いてみて、先にコラムを書かれた林先生が「大事なもの」と「大切なもの」との違いに言及されているのを読んで、私自身「大事」と「大切」を混同していることに気がつきました。とはいえ、学生時代の私に「大事」と「大切」の区別があったわけでもないので、そのまま筆(キーボードですが・・)を進めようと思います。

 少し話は変わりますが、高校時代に所属していたサッカー部の先生(監督)がおっしゃっていたことで、なぜか今でもこころの片隅に残っているセリフがあります。それは「長い時間ではなく、長い期間続けるように」というものです。これはサッカーのことについて言及していた発言であったと記憶しているのですが(もしかしたら先生の中にはそれ以上の含意があったかもしれません)、その後の私の人生において、とても重要な意味合いを帯びてきたように思います。先生はサッカーに関して、1日の内で長時間練習するより、毎日短時間でも長期的に継続してサッカーと向き合う方が成長することを伝えて下さっていたように思います(ちなみにその後大学でもサッカーは続けたのですが、能力の問題も相まってか、いっこうに成長できませんでしたが・・)。

 さてその後、大学3回生の時に、現在の私の仕事の中心軸になっている「精神分析」に出会うわけですが、当初は全くと言っていいほど理解できませんでした。フロイト先生、クライン先生は何をおっしゃっているのやらちんぷんかんぷんでした。そんな「精神分析」になぜ魅了されてきたかというと、自分自身のこころや、対人関係を含む自分を取り巻く環境に「何が起こっているのか」を一旦立ち止まって考え、「ありのままの自分を見ていくこと」に強調点があるからのように思います。その中で、特に「分からなさに留まって考え続けること」の重要性が説かれています。また、その分からなさに留まる能力のことを「負の能力(negative capability)」と言います。そして、「あれ、ちょっと待てよ。これって、投げ出さないこと、逃げ出さないこと、考え抜くことじゃん!」とある時思ったわけですね。学生時代に大切だろうなと思い、言い聞かせてきたことは、「精神分析」の中に包含されていたんですね。

 そして、かれこれ12年というそれなりの「長い期間」、精神分析的な理論や臨床に携わってきました。とかく何をするにも不器用な私は、何かを身に付けるまで人より時間がかかってしまうため、必然的に「長い期間」を要するというのもあると思いますが。差し当たり今思うことは、何かひとつのことを「長い期間」続けるには、やっぱり「好きなこと」や「魅了されるもの」でないと難しいということですね。大学生のみなさんにはぜひそんな対象を見つけて、取り組む期間にしてもらえたらと思います。

 ちなみに「それが大事」のアンサーソングにあたる「神様は手を抜かない」(2016)の中には、「投げ出してもいい」や「本当に大事なものなんて早々見つかるもんじゃない」というフレーズが含まれていて、「長い期間」取り組める何かを見つけ出すことがいかに難しいかも物語っているように思いました。

藤森旭人