私が学部生だった頃,非常に印象的な論文注)との出会いがありました。その論文は,水不足(渇水)に見舞われたある地域住民の節水行動を分析したものでした。いずれの分析結果も興味深いものでしたが,特に目を惹いたのは「渇水事態の深刻さの状況によって節水に協力する住民層が異なっていたこと」でした。
たとえば,最初に節水を実行するのは,節水による労力をいとわない(利便性を度外視する)住民でした。その後,渇水事態が深刻化し,自主的な節水が勧告された状況において節水を実行するのは,節水による経済的効果を重視する住民でした。そして,いよいよ断水が実施される段階になったら,風呂や洗濯面で清潔さの水準を少し下げても良いと考える住民がようやく節水しようとするというのです。
渇水事態の段階ごとに節水行動に着手する住民層が異なるということは,一律に節水に関する啓発メッセージを伝えるだけで十分とは言い難いことを示唆しています。そして,その背景には節水しようという動機に影響を及ぼす何らかの心理的要因が存在するはずです。節水行動に影響を及ぼす心理的要因を特定することで,限られた資源を有効に活用することができるかもしれません。
人々が自分にとっての都合の良さを重視して行動するのではなく,全体にとって何が望ましいかを考えながら行動してもらうにはどうすれば良いか。これは,限られた資源の活用のみならず,社会的マナー一般に通ずる部分があります。身近なところから社会に至るまで,人々が気持ちよく過ごすための工夫を引き出すヒントが,心理学にはあります。
注)広瀬 幸雄・北田 隆 (1987). 渇水時における住民の節水行動の規定因 社会心理学研究,2(2),21-28.





