教職員コラム お題「私の宝物」齊藤 由美

 「宝物は何ですか?」と聞かれると、いくつか思い浮かぶのですが、その中に「ラッコのぬいぐるみ」があります。

 この「ラッコのぬいぐるみ」は、今は亡き父が小学校3年生の時に買ってくれたものです。当時、「ラッコ」という何やら可愛らしい生き物が広島県の宮島水族館にやってきたと聞き、山口から家族で出かけました。初めて見るラッコの愛くるしさ、可愛さはなんともいえないものでした。そして、水族館の出口にあるショップには、なんとその「ラッコのぬいぐるみ」がありました。値段は3300円…。(まだ消費税が導入されていない時代でした。)当時、学年×200円(=600円)がひと月のお小遣いだった私にとっては、破格の値段です。「欲しい!!」でも、「自分では買えない…。」葛藤の末、両親に「買ってほしい」と勇気を振りしぼって言ったのですが…当然母は「ダメ!」と。やっぱり…と落ち込んでいたところに、父が「こうちゃれーや(買ってやれよ)」と一言!やったー!!と心の中でガッツポーズをした…と思います。相当嬉しかったのでしょう。当時学校の宿題として、毎日書かなければならなかった「あゆみ」(日記)にも、この「ラッコのぬいぐるみ」のことを書き、3300円という値段について、「3000円はお母さんラッコ、300円は赤ちゃんラッコ、赤ちゃんラッコが持っている音が出る貝はおまけだと思います。」という持論を展開したことを、今でも覚えています。

 あれから30年以上たちますが、今でも「ラッコのぬいぐるみ」は私のそばにいます。父がこの世を去った夜も、新しい生活に不安と期待が入り混じった夜も、「ラッコのぬいぐるみ」は私のそばにいました。気が付けば、私は亡き父が経験することが出来なかった年齢になっていました。いまではさすがに「ラッコのぬいぐるみ」を一緒に寝ることはありませんが、何かあったとき、そっと「ラッコのぬいぐるみ」に触れると、なんだかあったかく感じるのは私の気のせいでしょうか…。

齊藤由美