「ちょっと、保野くん、頭、貸して!」
入学間もない5月の連休明け、4年生の女性の先輩に声をかけられる。
「はい、いいですよ」
学生の頃、大切にしたこと、それは「何にでも、首を突っ込む!」ことか。当時の自分の行動を振返れば、これがピッタリ。カッコよく言えば、「好奇心旺盛にして、活動に参加する」とでも言えようか。
陸上競技部でランナー、知的障害のある子どもたちとキャンプ。キャンプカウンセラーとして山篭り、教授と一緒に学会参加、何かの講演会といえば、顔を出す、など。
さて、冒頭の話に戻します。
「はい、先輩、いいですよ、どこに行ったらいいですか?」
「6階の実験室に17時に来て、お願いね、」僕に微笑みかける。
“そうか、1年生の僕だけど、何か一緒に考えることがあるんだな。データの集計かもしれない”などと考えながら、約束の17時。実験室に向う。ネズミ色の木のドアをノック。
「失礼します。保野です。来ました」
初めて入る実験室に少し興奮気味で頭を差し込む。
「どうぞ、入って。ここに座って」
見ると、白衣を着た先輩。
「じゃ、頭に電極つけるね」
あの一言、「頭を貸してね」の意味は、「実験で、頭に電極をつけて脳波を記録するね」だったのです。
今の時代では、これはダメでしょう。インフォームド・コンセント(説明と同意)が必要です。実験者は、研究内容を説明し、それに参加者が同意してから実験を行う。
しかし、この出会いが、今も、脳波を使った睡眠研究につながっている。
この原稿を書き上げ、ホッとしていると、卒業研究で予備実験を行ってる4年生が来た。
「先生、お時間ありますか? 頭を、お借りできませんか?」
おいおい、僕の頭に電極をつけようと考えているんじゃないだろうね。